「最近、うちのワンちゃんがご飯を食べてくれない…」
「犬の腎臓病はどんな病気?」
「犬の腎臓病の対策法を知りたい」
愛犬の食欲がなくなったり、しんどそうにしていると飼い主さんも辛いですよね。
腎臓病ってよく聞きますが、実際には体の中でどんなことが起こっているのでしょうか。
腎臓病は悪化すると厄介な病気なので、早期発見して早めに対策していくことが重要です。
今回はそんな犬の腎臓病について、獣医師であり著者の宿南章(しゅくなみあきら)先生をお招きして、詳しく聞いてみることにしました!
獣医師。1969年生まれ。兵庫県養父(やぶ)市出身。 獣医師。日本大学農獣医学部(現日本大学生物資源科学部)獣医学科卒業。
横浜で犬猫の動 物病院に勤務。 西洋医学の限界を感じ、その後、米国の最先端の代替療法を日本に導入している研究所に移籍。
オリンピック銀メダリストなど、プロスポーツ選手の食事アドバイスをしたり、北海道の農 協の依頼を受け、牛のサルモネラダブリン症の治療を行い、 当時抗生物質も効かない病気を 治癒させるなど、数多くの治療実績を持つ。
その後、予防医学に特化した自然療法動物病院を設立し、犬・猫を中心に、国内外から治療 が困難とされた動物の治療にあたる。 その後、ドッグフードとキャットフードの開発を本格的に始め、2015年に著書『薬いらずで、 愛犬の病気は治る』を出版し、Amazon、楽天ブックス、紀伊國屋WEBストアなど、17部門で 1位を獲得。
目次
1.犬の腎臓の働きとは?
犬の腎臓の全体的な役割としては、
- 浸透圧の調整
- 老廃物を取り除く
- 血圧の調整
- 血を作るホルモンの分泌
この4つが主なものとなります。
1-1.浸透圧の調整
犬をはじめ生物の体は、ホメオスタシス(恒常性)によって生理機能が一定に保たれるようになっています。
均一の塩分濃度・ミネラル濃度は、このホメオスタシスによって一定に調整されているんですね。
体内の細胞が生きている状態を維持するためには、ミネラル・PH(酸・アルカリ)も含めて、かなり一定に保つ必要があります。これが浸透圧の調整です。
例えば人間の場合、体温を一定にするために体温が1度上がると、汗が噴き出るようになっています。
画像出典:https://ilovecope.com/
このように、浸透圧の調整を担っているのが腎臓です。
また、塩分を排出するということだけでなく、糖分の大量摂取によっても浸透圧が上がってしまいます。腎臓は浸透圧が上がればミネラルを排出させようとします。
ただ、糖まで捨てると糖尿になってしまいますし、糖はエネルギーなので腎臓は必死に止めます。
30分すると体内の糖が分解されて、血液中の糖が正常値に戻ると浸透圧が下がるので、今後は下がりすぎた浸透圧を上げるために、水分を排出して浸透圧を正常に保つ必要があります。
つまり、塩分調節(浸透圧の調整)しているということですね。
塩分・ミネラルのバランスが崩れて浸透圧が下がると、脳が大きくなりすぎたり、小さくなりすぎたりしてしまいます。
そして脳が浮腫を起こすと、細胞が正常に機能しなくなるので痙攣を起こして、わりと早い段階で死んでしまいます。
1-2.老廃物を取り除く
一般的に腎臓の働きでよく言われるのが、こし器やざるみたいな役割をしているということです。
体内に入ったものをろ過して、体に必要なものは残して不要なものを排出しているという具合ですね。
水に溶ける老廃物は尿として、胆のうから出る胆汁で脂に溶ける老廃物や有害物質、残りカスは便として排出します。
つまり、腎臓が弱ってしまうと、ろ過機能がうまく働かないので老廃物が体内に残ることになり、アンモニアのような有害物質が排出できないと脳が最初にダメージを受けるんです。
1-3.血圧の調整
腎臓は浸透圧の調整も担っていますが、血液の量も調整しています。減り過ぎないように増やしたりというように。
そもそも臓器は、1つの臓器で色々な機能をカバーしているので、レニンというホルモンを出して腎臓が血圧の調整も行っています。
1-4.血を作るホルモンの分泌
骨髄は白血球や赤血球、血小板などの血液を作る細胞を作る組織ですが、その組織に対してエリスロポエチンというホルモンを分泌して、骨髄に赤血球を作らせているのも腎臓です。
エリスロポエチンが分泌されないと赤血球を作らせることができないので、腎臓が悪くなると貧血を起こします。
2.犬の腎臓病ってどんな病気?
2-1.急性腎臓病
急性腎臓病は、急激に腎臓の機能が落ちることによって起こります。尿が止まらなくなって、尿崩症になってしまったりします。
犬の急性腎臓病は原因不明であることが多いのですが、
- 誤飲・誤食
- 大量出血(事故などによる)
この2つがよく見受けられます。
散歩中にワンちゃんが誤って農薬を舐めてしまったり、殺鼠剤を誤食することで腎臓が破壊してしまって急性腎臓病の原因になります。
殺鼠剤にはビタミンDが多く入っているので、腎臓にカルシウムが定着すると刃物のように腎臓を傷つけてしまうんですね。
また、犬に有害とされている食べ物
- ぶどう
- 玉ねぎ
- チョコレート
- アボカド
などによって、中毒を起こすと腎臓に影響を及ぼして、急性腎臓病や多臓器不全になります。
急激に腎臓が悪化するので、急性腎臓病は死亡率が高い病気ではありますが、腎臓病全体の1%程度と数が少なく、尿が止まらなくなることもあれば、逆に出なくなることもありますし、治るときは治るのも急性腎臓病の特徴です。
2-2.慢性腎臓病
次に、慢性腎臓病について。
慢性腎臓病は、徐々に腎臓が悪くなり、恒常的に腎機能が落ちることによって発症します。
腎臓は一度壊れると基本的に再生しない臓器の一つで、普段は腎臓全体の30%程度しか使わず後は予備として置いておくのですが、腎臓が悪化してある一定を過ぎると機能しなくなり、全体の60~70%腎臓が破壊した時点で、色々な検査の数値が上がってきます。
症状としては、
- 浸透圧の調整ができない
- 血圧の調整ができない
- 老廃物が除去できない
ということになりますが、慢性腎臓病で一般的に多く見受けられるのは、老廃物が除去できないという問題が一番大きいです。
画像出典:https://www.idexx.co.jp/
慢性腎臓病は徐々に悪くなるため、進行具合によって段階的に4つのステージに分けられています。
ステージ1、2の初期の段階では、食事療法で腎臓の負担を減らします。
ステージ3まで進むと、食事療法に加え点滴治療を行いますが、このステージになると残りの寿命が3ヶ月ぐらいという場合も多くなってきます。
ステージ4ではさらに腎臓病が進行していて、手遅れであることが多いので点滴を続けることが生存率を上げる方法になります。
ただし、ステージ3であっても食事を変えることで寿命が大幅に伸びたというケースを私もたくさん見てきましたよ。
例えば、私が開発した腎臓病の療法食によって、実際に腎臓病の状態が良くなったという声もあります。
トイプードル14才を飼っていますが、体調を崩し何も食べてくれなくなりました。先生の腎臓フードをお試しで与えたところ食いつきがよく食欲が出てきました。お陰で、5ヶ月たった今は元気で過ごしています。
16歳の愛犬の腎臓の数値が高くなり、色々な腎臓病のフードを試しましたが食べてくれませんでした。高齢のため食欲も落ちて心配していましたが、宿南先生の腎臓フードを取り寄せたところ、喜んで食べてくれました。今では体重も戻りつつあり痩せていく心配もなくなりました。
- 加齢
- 急性腎臓病
- 誤飲・誤食
などが言われていますが、慢性腎臓病の原因は実際上はよく分かっていません。
ただ、腎臓は一旦作られたものからダメージを受けたら減っていく感じなので、ざっくり年齢とともにということがよく言われています。
10何年かかって腎臓の細胞が壊れて減っていくので、何が本当の原因かっていうのはつかめないというところです。
急性腎臓病がきっかけとなって、慢性腎臓病になることもありますね。
なぜかと言うと、急性が良くなっても腎臓の壊れた部分は戻らないからです。
あと、先ほど急性腎臓病で話した誤飲・誤食の中毒症状の他に、以前中国製のペットフードの穀物原料にメラミンという有害物質が含まれていたことが原因で、犬の腎炎を引き起こしたということもあります。
3.犬の腎臓病の検査方法
3-1.腎臓病の症状
急性腎臓病の場合は、尿の量が急に増えたり、逆に全く尿をしなくなったり。
呼吸が荒くなったり、急にぐったりして意識低下がみられることもあります。
慢性腎臓病は、通常動物病院の血液検査で発見されることが多いです。
多くのワンちゃんは、年に1回ワクチンやフィラリアなどの治療前の検査のときに血液検査をするんですが、その検査で腎機能の低下が発覚することが多いんですね。
ご家庭でワンちゃんの様子を見て
- 痩せてきた
- 口臭がアンモニア臭い
- 毛がぼそぼそしてきた
- 食欲低下
- 歯茎が白くなってきた
- 起き上れにくくなっている
- 嘔吐
このような症状があり、腎臓病かもしれないと気づく場合もあります。
何だか最近痩せてきたとか、口臭が気になるとか、3日間も食べないというように食欲がなくなってきたとか、そういうことで動物病院に連れて来られる患者さんも多いですね。
腎臓が悪くなると血液が作れなくなるので、歯茎が白くなることもありますし、この状態になると寝てばっかりいるとか起き上がれない状態になってしまいます。
あと、腎臓が悪いと体内に毒が溜まって吐くこともあるので、それで動物病院に行ったら腎臓病になっていたということもあります。
具合が悪くなると、毛繕いをする元気もなくなりますし、毛並みも悪くなります。
毛がぼそぼそするというのは、毛を自分でケアする元気もないということですね。
3-2.動物病院での検査方法
犬の腎臓病の検査方法は、主に血液検査です。
IRIS(国際獣医研究グループ)が犬の腎臓病を4段階に分けているんですが、その一番指標となるのが血液検査のクレアチニンです。
クレアチニンというのは、筋肉中にあるたんぱく質の不要になったたんぱく質のことで、アンモニアは生成量にかなり差がありますが、クレアチニンはだいたい一定なので、数値を見れば本当の腎臓の数値が分かるんですね。
ただ、クレアチニンには腎機能が限界に近づくまで数値が上がらないというデメリットがあります。
そこで最近ではその補足として、クレアチニンよりも早い段階で腎機能低下に気づくことができるSDMAも使われるようになりました。
あと、もう1つBUN(尿素窒素)も腎臓病の指標として使われることがありますが、これは腎臓が悪くなくても高くなることがあるので、メインというよりはサブ検査として使われています。
4.犬の腎臓病の治療法
4-1.急性腎臓病の治療法
急性腎臓病の治療は基本的に点滴を行いますが、急性の場合は事故や中毒など原因が複数あるので、その原因に合わせて調整していきます。
点滴によってミネラルなど電解質の補正を行ったり、体内に毒素が溜まっている場合は利尿剤を使って尿をたくさん出させるといった具合に。
一番はとにかく動物病院に行って、適切な治療を行うことが大切です。
費用の面に関して言うと完全入院になることが多いので、3日間の入院でざっくり20万円ぐらいでしょうか。
原因などによっても変わりますが、良くなっても2日~2週間ぐらい入院治療することもあります。
4-2.慢性腎臓病の治療法
慢性腎臓病の治療は、わりと通いで点滴になることが多いです。
腎臓がすでに壊れてしまっているので、一番重要なのはいかに食事でコントロールするかということになります。
状態が悪ければ点滴をして、理想的には食事と活性炭やリン吸着剤などを使ってカバーしていくというのがメインの治療法です。
症状によって毎日点滴をするワンちゃんもいますし、週2回のワンちゃんもいます。
費用としては一般的に血液検査に2500円ぐらい、あとは食事でコントロールするので療法食として月2000円~3000円ぐらい、点滴で3000円~8000円なので、総計でざっくり月10000円ですかね。
慢性腎臓病の食事で注意したいことは、たんぱく質・リンをいかに低く抑えるかということで、うまくコントロールしつつ、アンモニアなどの有害物質を活性炭などで吸着させていきます。
たんぱく質は分解すると、アンモニアのような猛毒になったり硫黄成分が出たりするので、腎機能が低下しているとそれらが排出できなくなるため、たんぱく質の制限が必要です。
また、リンには腎臓細胞を破壊していく作用がありますし、リンは燃料で筋肉や脳を動かすのに必要なものですが、増えすぎると制御できなくなり悪影響を及ぼすため制限します。
そして治療ではないですが、体内のアンモニアなどの毒素を流れやすくするためにも、毎日最低でも1回は水を変えて、いつでも新鮮な水を飲める状態にしてあげることも大切です。
その他にも、おやつには気を付けなければなりません。
おやつにはたんぱく質やリンの量が多いので、せっかく腎臓病の療法食で頑張っていても無駄になってしまいます。
おやつを与える場合は、原材料などにも注意しましょう。
例えば、私が開発したささみ巻きというおやつがあるのですが、それは腎臓病のワンちゃんでも食べれられるように、たんぱく質やリンの量を調整して作りました。
4-3.腎臓病の食事療法
腎臓病にはいかに食事療法が大切かということが分かるかと思いますが、腎臓病と診断されたらまずはフードを療法食に変えることから始めなければなりません。
でも、体調が悪く食欲がないときに、美味しくない療法食を出されても食べないワンちゃんが多いので、食べるフードを与えるというのがいいんですね。
ただし注意点があり、フードを変えると犬は一時的にたくさん食べますが、たんぱく質が少ないフードでも2倍の量を食べると結局普通のフードのたんぱく質量と変わらなくなるので、適切な給餌量を守るということが大切です。
ポイントとしては、ワンちゃんが欲しがる量よりも少し少な目の量で、今まで与えていた量の6~7分目がおすすめです。
腎臓病に於いて最も命に関わることは、食べられるフードがなくなることです。
そこで最初から少な目に与えると、血液中のたんぱく質量が急激に上がらないので、食べ続けることができるんです。
4-4.腎臓病のフードの選び方
ワンちゃんにも好き嫌いなど趣向性があるので、実際に食べてくれるのは4種類あるうちの1種類ぐらいじゃないでしょうか。
そのため、まずはサンプルを理想的には5種類ぐらい集めて、食べるフードを見つけるといいですね。
それを踏まえた上で、腎臓病のフードの中から、良質なフードを見極めることが大切です。
腎臓病はたんぱく質やリンの制限が必要になるので、獣医師が開発しているフードであると安心です。
獣医師であってもそもそも犬を飼ったことがない人もいるので、ちゃんと犬を理解している獣医師が開発しているフードだと更にいいですね。
注意点としては、獣医師監修というフードの中には名前だけを利用して、実際に開発には獣医師が関わっていないということが大半なので、獣医師の推薦や監修ではなく、販売や製造している会社内に獣医師が管理者として責任を持っているドッグフードを選ぶことが理想です。
愛犬の命に関係しますので腎臓病フードでは特に重要な判断と考えられます。
5.犬の腎臓病の予防法
犬の腎臓病の予防に関して、日本の犬と海外の犬が根本的に違うということを理解することが大切です。
日本は国土も家も小さいので、小型犬を飼う人が多いですが、海外はどちらかというと中・大型犬を飼っていることが多いです。
しかも海外は国土も広いですし、家も大きくて、庭を自由に行き来したりという感じなので、運動量的には軽く日本の5~10倍ぐらいになるんじゃないでしょうか。
運動すればするほどたんぱく質量は必要なのでそれが適切になるんですが、小型犬用といっても欧米のフードを日本に持ってくると、たんぱく質量が多すぎるんですね。
そうすると、たんぱく質量が多すぎるため腎臓病を発症してしまうんです。
そういう意味で、日本ではたんぱく質量が多すぎない適切な量のフードの方がいいということになります。
原材料も含め、獣医師が販売会社や製造メーカーに常勤研究員として製造を担当し、責任を持って開発している良質なフードを選ぶということが犬の腎臓病予防には大切です。
最後に
ぜひ、今回の記事が、腎臓病のワンちゃんをお持ちで、苦しい思いをされている飼い主の皆様のお役に立つことができれば幸いです。
では、またお会いしましょう!
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